Stories02 性能評価
開発本部 開発推進室評価実験G 上級主任
小林 悠輔
開発本部 基盤技術開発部部長
貴家 伸尋

Make performance

官能評価とCFD、アナログとデジタルの融合で
GR PARTSの性能を追究する

まずは乗って確かめる、官能評価で作り込む絶妙な「乗り味」

 TCD(トヨタカスタマイジング&ディベロップメント)が手がけるGR PARTSの空力開発方法には開発ドライバーが行う「官能評価」と数値流体力学に基づく「CFD」があります。官能評価とは開発ドライバーがクルマの“乗り味”を決める作業。ストリートスペシャルであるGR PARTSの乗り味とは、日常のあらゆる速度や環境において、運転が楽しく、快適に感じられることです。その中でも特にこだわっているのがハンドリング。切り始めからドライバーの意図通りに曲がり、スッと切れる、気持ちの良いステアリングフィールを意識しています。

 テストドライバーというと、テストコースでヘルメットをかぶって200km/hで走っている姿をイメージするかもしれませんが、そんなことはまったくありません。試作品を装着して、まずは30km/h以下で走行。その時点でダメなものを不合格とし、評価の良かった物は徐々に速度を上げて確認します。加えてドライバー視点の確認だけではなく、助手席や後席に座り、乗り心地をチェックすることもあります。

レースで蓄積されたデータと経験、CFDで明らかになる風の流れ

 開発ドライバーだからこそ走行時の微妙な違和感から問題を察知することができますが、カンとコツだけでは問題が発生している箇所をつぶさに特定するのは困難です。そこで活躍するのがCFD(Computational Fluid Dynamics=数値流体力学)です。

 コンピューターで車両に当たる空気の流れを計算することで、風速や車体にかかる圧力、渦の強さなど流れに関するあらゆるデータを収集・可視化します。さまざまな走行状態でシミュレーションを行うことにより、車両まわりの流れの良し悪しを評価します。

 TCDではライバルよりコンマ1秒でも遅ければ負けというシビアなSUPER GT車両の開発現場で、膨大な数のCFDと風洞試験を実施。それらの豊富なデータを元にCFDプラットフォームを常にアップデートしており、GR PARTSにおいても、SUPER GTで使用される最新のプラットフォームで開発を行っています。

官能評価とCFDのスパイラルアップこそGR PARTSの真髄

 とはいえ、CFDで得られる結果のみでは部品の性能の良し悪しまではわかりません。官能評価と突き合わせることで、データを読み取る精度そのものが上がり、性能向上に寄与する箇所を素早く発見できるようになります。官能評価とCFD、この2つの試験結果をお互いにフィードバックし、目標性能に向けた継続的な改良の好循環(スパイラルアップ)を生み出す環境によりGR PARTSは日々進化を続けています。

Cross Talk Interview

小林 悠輔(こばやし ゆうすけ)
株式会社トヨタカスタマイジング&ディベロップメント
開発本部 開発推進室 評価実験G 上級主任
2005年入社。SUPER GTのエンジン設計を経て、トヨタ自動車に出向。レクサスIS F、RC Fの実験を担当し、TCD帰任後も用品の実験と評価を担当している。
貴家 伸尋(さすが のぶひろ)
株式会社トヨタカスタマイジング&ディベロップメント 開発本部 基盤技術開発部 部長
2015年入社。前職はレーシングカーの空力エンジニアで、入社後もレーシングカーの空力を担当。現在は空力にとどまらず、ドライビングシミュレーターを含むモデルベース開発技術の構築や各種実験技術の開発等のとりまとめを担当している。
官能評価とCFD、どちらが欠けてもダメということでしょうか?

貴家:解析だけではわからないことがまだまだたくさんあります。空気抵抗を減らすのは数値で出てくるのでわかりやすいですが、ドライバーが感じている感覚、カンの部分に関してはまだまだ手探りです。官能評価の結果を見て、ドライバーはそう感じるのか?と思うことはありますね。

小林:官能評価もカンとコツだけでやると間違った方向に進んでしまうことがあります。しかし、CFDで風流れと空力効果の確認を行い、方向性を見失わないようにすることで、我々の仕事の精度が上がっています。そのため修正する幅がだいぶ小さくなるので、官能評価スタートからゴールまでの時間が圧倒的に短縮されます。

貴家:官能評価に関わることで、机上で予測できることは現状でもありますし、今後さらに増えていきます。乱れた流れの制御など、レーシングカー開発で培った技術は投入できているので、そういった部分を机上で検討し、試作品のレベルを短時間で向上させることができるのです。
ただし、CFDはソフトウェアに条件を入れて計算しただけで正解が得られることは絶対にありません。そのため、将来的にも実走テストがなくなることはないと考えています。実走データや官能評価、風洞試験データと突き合わせて細かい調整を行う必要があります。ここが一番重要かつ難しいところですが、計算・実験・実走をコンパクトなチームですばやく実施できるTCDの強みを活かして高精度なCFDを実現しています。

実際の評価の現場でのエピソードを教えてください。

貴家:GR86用の「GRエアロノーズコーン」を例にお話ししますと、最初の試作品では走っても効果が出ず、過去の知見から色々形状を変えて官能評価を繰り返してもうまくいきませんでした。そこでCFDを行った結果、厚みが大きく、当たった空気の流れが乱れてしまい「GRトランクスポイラー」の効果を減少させていることがわかりました。そこでデザイン部門に提案し、ノーズコーンのライセンスプレート位置とブラケットの形状を薄く変更。ほんのちょっとの差ですが、効果は歴然。官能評価でも効果を確認しました。

小林:そのほかにも最近では床下の空力性能が高く、フロントスポイラーを付けたことで、アンダーカバーの空力性能が低下する現象が見受けられることもあります。その結果、部品単体の性能は発揮するものの、部品を付けたことでベース車の空力性能をスポイルしてしまい、効果が出なかったということがありました。

デザイン・設計部門とのコミュニケーションも大事ですね。

小林:まさに、その通りです。

貴家:官能による感覚的な要素とCFDによる絶対的な数値データ、この2つの組み合わせで得られた結果を上手くデザイン・設計部門にフィードバックすることによりGR PARTS開発を行っています。

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